クラス基準を読む前に:何を数えているのか
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クリーンルームの「クラス」という言葉は、空気中に浮遊する微粒子の濃度の上限を段階で表した区分を指します。一般に使われる基準は、国際規格ISO 14644-1です。この規格は、空気中の微粒子の粒径ごとの濃度の上限を、ISOクラス1からクラス9までの9段階で定めています。数字が小さいほど清浄で、クラスが一つ上がるごとに許容される粒子の数は原則として10倍になります。
ここで大切なのは、クラスが「空気1立方メートル中の、一定以上の大きさの粒子の個数」で定義されていることです。粒子の大きさは、0.1マイクロメートル(µm)から5µmまでの範囲で、クラスごとに対象とする粒径が決まっています。つまり、クラスの数字を見たときには、どの粒径を、どの状態(建設後、休止時、運転時)で、何か所で測るのかを併せて確認する必要があります。同じ「クラス5」でも、測る状態が違えば意味が変わります。
本ページは規格の概要を整理したものです。上限値や試験方法の細部は、規格原文で確認してください。規格を購入・閲覧する窓口として、日本産業規格(JIS)は日本産業標準調査会(JISC)、国際規格はISOの規格ページ(ISO 14644-1:2015)から確認できます。市場全体の見取り図はクリーンルーム市場の全体像にまとめています。
ISO 14644シリーズの構成
ISO 14644は、クリーンルームと関連する管理環境に関する規格群で、複数のパート(部)に分かれています。実務でよく参照される部は次のとおりです。
- ISO 14644-1:粒子濃度による空気清浄度の分類(クラス1〜9)。2015年に改訂された第2版が現行版として広く使われています。
- ISO 14644-2:粒子濃度を監視して、クリーンルームの性能を裏づける考え方。
- ISO 14644-3:試験方法。風量・風速、差圧、フィルタ取り付け部の漏れ、回復性能などを扱います。
- ISO 14644-4:設計、施工、立ち上げ。
- ISO 14644-5:運用。
- ISO 14644-8:分子状汚染(空気中の化学物質)の分類。
- ISO 14644-16:クリーンルームのエネルギー効率。省エネ運用のページで関連する論点を扱います。
このほか、分離装置(アイソレータなど)、表面の清浄度、超微粒子の測定などを扱う部があります。各部の最新の発行状況や改訂の有無は、ISOまたはJISCの公式ページで確認する必要があります。
ISOクラス1〜9の上限と考え方(0.1µmと0.5µmの例)
ISO 14644-1は、クラスNに対して、粒径Dµm以上の粒子の最大許容濃度Cn(個/m³)を、次の式で表せる関係で示しています。
Cn = 10N × (0.1 ÷ D)2.08
この式から、0.1µm以上の粒子についてはクラスNの上限が10N個/m³となり、0.5µm以上の粒子については、クラス5で3,520個/m³、クラス7で352,000個/m³となります。規格の表に載っている値は、この式に基づいて丸めたものです。次の表は、0.1µm以上と0.5µm以上の2つの粒径について、代表的な上限を抜粋したものです。規格の表には0.2µm、0.3µm、1µm、5µmの列もあり、クラスによっては規定のない粒径があります。表の「—」は、本ページでは掲載しない、または表で対象としない欄を示します。
| クラス | 0.1µm以上(個/m³) | 0.5µm以上(個/m³) | 備考(旧連邦規格209Eとの対応) |
|---|---|---|---|
| ISOクラス1 | 10 | — | — |
| ISOクラス2 | 100 | — | — |
| ISOクラス3 | 1,000 | 35 | 旧クラス1に相当 |
| ISOクラス4 | 10,000 | 352 | 旧クラス10に相当 |
| ISOクラス5 | 100,000 | 3,520 | 旧クラス100に相当 |
| ISOクラス6 | 1,000,000 | 35,200 | 旧クラス1,000に相当 |
| ISOクラス7 | — | 352,000 | 旧クラス10,000に相当 |
| ISOクラス8 | — | 3,520,000 | 旧クラス100,000に相当 |
| ISOクラス9 | — | 35,200,000 | 旧連邦規格に対応するクラスなし |
ISO 14644-1:2015 の考え方に基づく概要。実際の設計・検証では規格原文の表(0.2µm、0.3µm、1µm、5µmの列を含む)を確認してください。
粒径が小さい列ほど、測定に高性能な機器が必要になります。また、規格には、粒径1µm以上の領域では低濃度での採取に制約があることや、5µmの粒子の扱いに関する注記が付されたクラスがあります。したがって、一部のクラスでは5µmの欄で分類を行わず、他の粒径で判断することになります。クラス3〜5の高清浄な領域は、半導体製造の装置周辺や医薬品の無菌操作区域などで検討される範囲です。クラス7〜8は、周辺の背景環境や、一般的な電子部品の組み立てなどで話題にされる範囲です。ただし、どのクラスを採用するかは、工程と製品の要求、社内基準、法令・ガイドラインによって決まります。
旧連邦規格 Fed-Std-209E との対応関係
ISO 14644-1が普及する前は、米国の連邦規格209Eが広く使われていました。この規格では、1立方フィートあたり0.5µm以上の粒子が何個以下かでクラスを呼び、「クラス100」「クラス1,000」「クラス10,000」といった表現が定着しました。たとえば、クラス100は、0.5µm以上の粒子が1立方フィートあたり100個以下の環境を指します。1立方フィートは約0.0283立方メートルなので、これを立方メートルに換算するとおよそ3,530個で、ISOクラス5の3,520個/m³と近い値になります。
この換算から、旧クラス100はISOクラス5、旧クラス1,000はISOクラス6、旧クラス10,000はISOクラス7、旧クラス100,000はISOクラス8に相当するとして扱われています。連邦規格209Eはすでに廃止され、現在の規格体系ではISO 14644-1が基準となっています。しかし、現場や設備の仕様書、機器のカタログには、いまも旧来の呼び方が残っています。仕様書で「クラス100」とだけ書かれている場合は、旧連邦規格の呼称か、単なる通称かを発注者と施工者の間で確認することが、認識の食い違いを防ぐ基本になります。
換算の際には、単位が個/ft³から個/m³に変わることのほかに、粒径の基準が0.5µmに限られていた旧規格と、複数の粒径を扱うISO規格との違いにも注意が必要です。
占有状態:建設後・休止時・運転時
清浄度のクラスは、どの状態で測ったかによって意味が変わります。ISO 14644-1は、次の三つの占有状態を区別しています。
- 建設後(as-built):設備が完成し、稼働していても、生産装置や人員がない状態。
- 休止時(at-rest):設備が据え付けられ、合意した条件で稼働しているが、人員がいない状態。
- 運転時(operational):合意した人数が、合意した方法で作業している状態。
運転時は人や装置が発塵するため、休止時より粒子濃度が高くなるのが通常です。そのため、発注者と施工者は、どの状態でどのクラスを満たすかを契約や検証計画書で明確にします。たとえば、同じクリーンルームでも「休止時でISOクラス5、運転時でISOクラス7」のように、状態ごとに別の目標を置く運用があります。GMPのグレード区分でも、休止時と運転時で許容値を分けて定めています(次節)。
清浄度測定と性能評価の流れ
クリーンルームが引き渡された後、あるいは定期点検の際に、性能が要求を満たしているかを確かめる試験があります。ISO 14644-1は粒子濃度による分類のための測定方法を定め、ISO 14644-3は個別の試験方法を扱います。JISでは、これらに対応するJIS B 9920シリーズが整備されています。JIS B 9920-1は2019年に、ISO 14644-1:2015に基づいて制定され、JIS B 9920-3は2025年に制定されています。各部の発行状況は、JISCの公式ページで確認してください。
粒子数による分類
光散乱式のパーティクルカウンタを使い、定めた測定点で空気を吸引して粒子を数えます。測定点の数は対象区域の面積に応じて決まり、1点あたりの採取量は、クラスの上限値で一定数以上の粒子を検出できる量を基本に計算します。採取の時間と量には下限が設けられています。測定点ごとの結果をまとめて、クラスの上限を超えていないかを判定します。測定機器については計測機器のページで整理しています。
個別の性能試験
粒子数の測定以外に、風量・風速、差圧(隣室との圧力差)、フィルタ取り付け部の漏れ試験、清浄度の回復時間、気流の向きの可視化などが行われます。フィルタの漏れ試験では、上流側に試験用の粒子を発生させ、下流側で漏れを走査して調べる方法が使われます。気流の可視化は、微粒子を一方向に押し流す一方向流のクリーンルームで特に重要で、気流が乱れて粒子が滞留する場所がないかを確認します。
定期的な再確認
性能は時間とともに変化します。フィルタの目詰まり、シール部の劣化、運用の変更などで、竣工時の性能が維持されなくなることがあります。そのため、定期的な再試験と、連続的な粒子モニタリングが組み合わされます。連続モニタリングの考え方は環境モニタリングの節で扱っています。
医薬品GMPのグレードA〜D
無菌医薬品の製造では、ISOクラスとは別に、GMPで作業区域の清浄度グレードを定めています。欧州のGMP指針(EU GMP)の附属書1(Annex 1)では、無菌医薬品の製造の区域をグレードAからDに区分し、休止時と運転時の双方について、0.5µm以上の粒子の濃度や微生物の許容水準を示しています。附属書1は2022年に改訂され、汚染管理戦略の考え方が前面に出ました。原文は欧州委員会が公開している附属書1の改訂版で確認できます。
| グレード | 休止時のISO相当 | 運転時のISO相当 | 休止時 0.5µm以上(個/m³) | 運転時 0.5µm以上(個/m³) | 対象となる区域の例 |
|---|---|---|---|---|---|
| グレードA | ISOクラス5 | ISOクラス5 | 3,520 | 3,520 | 無菌操作や充填など、製品が露出する高リスクの作業区域 |
| グレードB | ISOクラス5 | ISOクラス7 | 3,520 | 352,000 | グレードAの背景となる区域 |
| グレードC | ISOクラス7 | ISOクラス8 | 352,000 | 3,520,000 | リスクの低い工程の区域 |
| グレードD | ISOクラス8 | 規定なし(設定は施設が決める) | 3,520,000 | 規定なし | リスクの低い工程や、準備の区域 |
EU GMP Annex 1(2022年改訂版)の記載を要約した概要。微生物の許容水準や5µm以上の粒子の扱い、運用上の詳細は原文を確認してください。日本国内の適用は、医薬品GMP省令や、PIC/S GMPガイドラインの附属書に関する通知など、所管官庁の資料で確認する必要があります。
グレードAは、無菌充填などで製品が露出する場所に設けられ、層流(一方向流)の確保が前提となります。グレードBは、グレードAの背景環境として位置づけられ、更衣室や出入りの動線の設計が重要です。グレードCとDは、前段階の工程や準備の区域に使われます。区域間は、圧力差を保って空気が清浄度の高い側から低い側へ流れるようにします。厚生労働省の医薬品関連の情報は厚生労働省の医薬品ページから確認できます。バイオクリーンルームの詳細はバイオ・GMPのページで扱います。
日本のJIS B 9920シリーズとの関係
日本産業規格のJIS B 9920は、ISO 14644の対応する部と整合を取った規格で、クリーンルームの空気清浄度の評価方法を定めています。JIS B 9920-1は粒子濃度による空気清浄度の分類を扱い、ISO 14644-1:2015を基に作成されたものです。JIS B 9920-2はクリーンルームの性能を裏づける監視の方法を、JIS B 9920-3は試験方法を扱います。国内の仕様書で「JISクラス」という言い方がされることがありますが、現在はISOクラスとの対応で整理するのが一般的です。
フィルタについては、別の規格が定めています。HEPAフィルタ、ULPAフィルタは、JIS Z 8122(コンタミネーションコントロール用語)の定義により、粒径と捕集率の組み合わせで区分されます。欧州規格EN 1822は、最も透過しやすい粒径(MPPS)での捕集率によってH13、H14、U15〜U17などの等級を設けており、海外製フィルタの仕様でよく目にします。フィルタの規格と主な製造元は、機器メーカーの比較表に整理しています。
用途別に見る基準の使い分け
どのクラスやグレードを採用するかは、用途によって異なります。公開されている一般的な整理を、次のようにまとめます。
- 半導体・電子部品:工程や装置、社内基準によって要求が大きく異なります。共通の一覧はなく、装置周辺のミニエンバイロメントと、広いベイの背景環境を組み合わせて設計されます。
- 無菌医薬品:GMPのグレードA〜Dが基準です。無菌操作を行う作業点はグレードAで、背景がグレードBという構成が典型的です。
- 再生医療等:細胞培養加工施設(CPC)では、細胞を扱う作業点に安全キャビネット等を置き、その周辺の室を階層的に管理します。法令と指針に基づいて構造設備や管理方法を定めます。
- 食品:粒子濃度のクラス表示に代わり、HACCPに基づく衛生区分と、空気の流れ・陽圧管理で運用されます。
- 研究・試験:目的に応じて、クリーンベンチや安全キャビネット、クリーンブースの単位で清浄度を確保する場合も多くあります。
基準を選ぶときは、製品や患者に対するリスク、法令や取引先の要求、そして維持するための運用コストを総合して判断します。クラスを一つ上げると、換気回数や風量が増えるのが通常で、運転費用にも影響します。省エネとの関係は省エネ運用のページで解説しています。
