なぜクリーンルームは電力を使うのか
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クリーンルームは、清浄な空気を大量に循環させることで粒子を室外へ押し出し、清浄度を保つ空間です。一般の事務所ビルの空調が、人の快適性を目的に必要な換気量を確保するのに対し、クリーンルームでは、粒子を排除するために非常に大きな風量を流し続けます。この空気を動かすファンの電力と、室内で生じた熱や、外から取り込んだ空気の熱・湿度を処理する冷熱源の電力が、運転費用の主要な部分を占めます。
運転費用が大きくなる構造は、設計の段階でおおよそ決まります。要求される清浄度のクラスが高いほど、換気回数や吹出風速が大きくなり、ファンの動力とフィルタの圧力損失が増えます。温湿度の許容範囲が狭いほど、冷却と再熱、加湿・除湿のエネルギーが増えます。そのため、省エネは「運転中に節約すること」だけでなく、「必要以上の仕様にしないこと」から始まります。クラスの考え方はクラス基準と規格、機器の種類はFFU・フィルタの比較に整理しています。
国際規格にも、この課題を扱うものがあります。ISO 14644-16は、クリーンルームとクリーンエア装置のエネルギー効率について、ガイダンスを示す規格です。規格の発行状況や適用範囲は、日本産業標準調査会(JISC)や国際規格の公式ページで確認してください。
エネルギー消費の構成を分解する
クリーンルームのエネルギー消費は、おおまかに次の要素に分けて考えられます。建物や施設の種類によって比率が異なるため、一般的な割合を断定することは避けますが、どの要素が自社の施設でどれだけ占めているかを把握することが、改善の出発点になります。
- 循環ファン(FFUまたは空調機):清浄な空気を流し続ける動力。風量が大きいほど増えます。
- 冷熱源・熱源:装置や照明、人から出る熱を除去し、外気を冷却・加熱する設備。
- 外気処理:室内の圧力を保つために取り込む外気の冷却・除湿・加湿。
- 加湿・除湿:湿度を一定に保つための設備。ドライルームでは除湿の負荷が大きくなります。
- 排気・局所排気:装置や作業からの排気を処理する設備。排気した分だけ外気を取り込むため、外気処理にも影響します。
- 照明・その他:比率は小さいものの、発熱として冷却負荷に影響します。
公益財団法人省エネルギーセンター(ECCJ)は、工場の省エネに関する一般的な情報や、省エネ診断などの支援策を公開しています。クリーンルームを持つ工場でも、まず全体のエネルギーの流れを計量して「見える化」し、どの要素に改善の余地があるかを判断するのが基本です。
産業空調の事業者も、省エネとの両立を強調しています。たとえば大気社は、公式サイトで、固有の環境負荷低減技術を用いてエネルギーを最適に制御し、クリーンな環境の確保と省エネルギー化の両立に努めていると説明しています。三機工業の公式サイトも、クリーンルーム技術を駆使して省エネルギーのシステムを提供していると説明しています。
FFUの風量制御とモータ方式
FFUは、ユニットごとに送風機を持つため、風量を細かく調整しやすい機器です。省エネの観点で、主に次のような手法が取り上げられます。
風量の最適化
竣工時にはユニットごとの風量にばらつきがあり、実際の運転で必要な風速よりも過剰な風量で動いている場合があります。測定した風速をもとに、各ユニットの風量を調整すると、同じ清浄度を保ちながら消費電力を下げられる可能性があります。風量の設定を変えるときは、清浄度の測定で必要な性能が維持されていることを確認する必要があります。
モータ方式の選択
FFUに使われるモータには、交流モータのほか、直流モータや、電子整流モータ(ECモータ)などがあります。一般に、効率の高いモータは同じ風量でも消費電力が小さくなりますが、初期費用や制御機器の構成が異なります。製品ごとの仕様と効率は、各メーカーのカタログで確認する必要があります。たとえば日本エアーテックは、公式サイトの製品一覧に、多目的クリーンユニット(SS-MAC)とSUS製クリーンユニット(EC-MAC)を掲載しています。
運転状態に応じた制御
生産の停止時や、作業者が不在の時間帯に風量を下げ、再開時に元の風量に戻す運用は、省エネの手法として広く検討されています。ただし、風量を下げた状態でも、必要な清浄度に回復するまでの時間や、室圧が保たれることを確認しておく必要があります。医薬品のように、清浄度の逸脱が製品品質に直結する分野では、運転条件の変更は検証と変更管理の手続きを経て決めます。休止時の運転モードの扱いは、GMPの考え方や社内の品質システムに従います。
ユニットの制御方式
多数のFFUを個別に制御できる中央監視システムを導入すると、風量の一括変更、故障の検知、運転時間の記録が容易になります。ネットワーク接続の方式や、サイバーセキュリティへの配慮は、導入時の確認項目です。
外気処理・再循環・差圧管理
クリーンルームでは、室内の空気の大部分を循環させ、少量の外気を取り込んで室内の圧力を保ちます。外気は夏季には冷却・除湿、冬季には加熱・加湿が必要で、取り込み量が多いほど処理のエネルギーが増えます。取り込み量を決める要因は、作業者の人数に必要な換気量、装置や局所排気による排気量、隣室との差圧を保つための漏れ量です。
差圧管理は、省エネの面でも重要です。必要以上に大きな差圧を設定すると、隙間から流出する空気が増え、外気処理の負荷が上がります。一方、差圧が不足すると、清浄度の低い区域から高い区域への空気の逆流を招きます。したがって、差圧の目標値は、扉の開閉や隙間の状態を考慮して設計し、運用中は差圧計で監視します。
再循環の方式にも種類があります。天井の吹出口から床面に向けて空気を流し、床下や壁際から戻す方式や、天井裏の空間(プレナム)を使って空気を循環させる方式があります。ダイダンの公式サイトでは、クラス6〜8のクリーンルーム向けに、ダクトを使わず壁際の吹出口から気流を送る「バーチャルダクト・クリーンルームシステム」を紹介しています。こうした方式は、ダクトの圧力損失を減らして、省エネルギーを図ることをねらいとしています。
半導体工場の分野では、工場全体の清浄度を上げるよりも、生産装置の周辺だけを高清浄化する「ミニエンバイロメント」の考え方が使われます。新菱冷熱工業の公式サイトも、半導体が触れる空間だけをきれいにすることが効果的であるという趣旨の説明をしています。必要な区域だけを高い清浄度にして、他の区域のクラスを緩めると、全体の風量とエネルギーを抑えられる可能性があります。
ライフサイクルコストの考え方
クリーンルームの費用は、建設時の初期費用だけでなく、運転・保守・更新の費用を含めたライフサイクル全体で評価するのが基本です。運転の期間は長く、電力量が大きいため、初期費用が高くても運転費用が低い仕様が、総額で有利になる場合があります。反対に、使用期間が短い、または生産計画が変わる可能性が高い施設では、初期費用を抑える仕様を選ぶ判断もあり得ます。
ライフサイクルコストを構成する主な項目は次のとおりです。
- 初期費用:設計、内装、空調機、FFU、フィルタ、自動制御、電気・配管、検証。
- 運転費用:電力、冷温水、純水、加湿用の水。
- 保守費用:フィルタ交換、機器の点検・修理、センサの校正、定期的な性能再確認。
- 更新・改修費用:設備の更新、レイアウト変更、規制の変更への対応。
- 休止・撤去費用:廃棄物の処理、原状回復。
フィルタは、圧力損失が上がるとファンの動力が増えるため、交換周期の設定が費用に影響します。早めに交換すると電力は節約できますが、フィルタの購入費用と作業の負担が増えます。差圧の監視値と、粒子数の測定結果をもとに、最適な時期を判断することが課題になります。計測の方法は計測・環境モニタリングのページで扱っています。見積もりを比較する際の観点は設計・施工の比較表の発注の節にまとめています。
脱炭素の要請と省エネ補助の確認方法
製造業の脱炭素の取り組みが進む中で、クリーンルームの省エネは、事業会社の環境目標とも結びつきます。国内では、エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(省エネ法)が、一定規模以上のエネルギー使用者に対して、エネルギー使用状況の報告や、中長期計画の提出などを求めています。対象となる事業者かどうかや、報告の内容は、所管官庁の資料で確認する必要があります。
省エネ設備の導入に対する国の補助事業は、年度ごとに内容が変わり、公募の期間も限られます。クリーンルームの空調更新やFFUの高効率化が、どの補助の対象になるかは、その年度の公募要領で確認するのが基本です。当サイトでは、補助制度の金額や条件を断定せず、確認先として省エネルギーセンターや、経済産業省・環境省の公式ページを案内するにとどめます。環境省は公式サイトで脱炭素関連の施策を公開しています。
データセンターや半導体工場などで、冷却技術と省エネの課題が重なる領域は、姉妹サイトのDC Cooling Insightでも取り上げています。
省エネ改善を検討するときのチェックリスト
実際に改善を検討するときの確認項目を、順番に整理します。
- 要求仕様(清浄度クラス、占有状態、温湿度、差圧)が、現在の生産実態に合っているかを見直します。
- エネルギー使用量を、ファン、冷熱源、外気処理などの要素別に計量します。
- FFUまたは空調機の風量を実測し、過剰な風量がないかを確認します。
- 差圧と外気取り込み量を見直し、設定値が適切かを確認します。
- 運転モード(稼働時・休止時)を変更する場合は、清浄度の回復時間を測定し、品質部門の承認を得ます。
- フィルタの交換周期を、差圧と粒子数のデータに基づいて見直します。
- 改善の効果を、運転データで確認し、記録に残します。
改善の手順は、現場の状況に応じて変わります。設計・施工事業者や機器メーカーの提案を比較する際は、設計・施工の比較表と機器メーカーの比較表を併せてご覧ください。バイオクリーンルームや食品工場に固有の運用上の制約はバイオ・GMP・食品のページで整理しています。
