計測とシミュレーション:清浄度を確かめ、気流を読む
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クリーンルームの清浄度は、設計の段階でシミュレーションにより予測し、完成後は計測によって確かめ、運用の期間は監視によって維持します。この流れの中で使われる主な道具は、空気中の粒子を数えるパーティクルカウンタ、風速や差圧を測る機器、環境の状態を記録するモニタリングシステム、そして気流を数値計算する流体解析(CFD)ソフトです。
本ページでは、この三つの領域を整理します。まず計測機器の原理と規格上の位置づけ、続いて常時モニタリングの考え方、最後にCFDの役割を取り上げます。計測機器メーカー4社とCFDソフト2種については、公式サイトで確認できる事実項目を表にまとめました。優劣や順位は示しません。基準となるクラスの考え方はクラス基準と規格で解説しています。
パーティクルカウンタの原理と規格
クリーンルームで使われる気中のパーティクルカウンタは、光散乱式が主流です。空気を一定の流量で吸引し、検出部に通してレーザーなどの光を当てると、粒子が光を散乱します。この散乱光の強さから粒子の大きさを判定し、大きさごとに個数を数えます。ISO 14644-1は、粒子濃度の測定に光散乱式の気中粒子計数器を用いることを前提にしています。
測定の信頼性を保つために、計数器自体の校正と性能確認が欠かせません。ISO 21501-4は、光散乱式の気中粒子計数器の校正と検証の方法を定めた国際規格で、粒径の分解能、計数効率、誤計数などを確認します。日本でも対応するJIS規格があり、計数器の定期的な校正を前提とした運用が一般的です。機器メーカーは、点検校正や修理の窓口を設けています。
測定時の注意点として、吸引口の位置と向き、サンプリングチューブの長さと曲がり、測定点の選び方が挙げられます。一方向流のクリーンルームでは、気流と同じ速度で空気を吸い込む「等速吸引」の考え方が関わります。測定結果は、占有状態(休止時・運転時)を記録した上で、クラスの上限と比較します。この手順は清浄度測定と性能評価の節にも書きました。
| 企業名 | 本社所在地・設立 | 主な製品区分 | 公式サイトに記載のある項目 | 上場区分ほか |
|---|---|---|---|---|
| リオン株式会社 | 東京都国分寺市東元町3-20-41。設立1944年 | 微粒子計測器(パーティクルカウンタ)。気中と液中の両方を製品区分として掲載 | 気中微粒子の測定と管理、液中微粒子の測定と管理、基本原理の解説、点検校正・修理の依頼窓口を公式サイトに掲載 | 東証プライム(6823)。事業は医療機器、環境機器など |
| 日本カノマックス株式会社 | 大阪府吹田市清水2番1号(東京に支社)。創業1934年、設立1951年 | 計測機器(パーティクルカウンター、クリーンルーム用関連機器、環境モニタリングマネキンなど) | ハンドヘルドパーティクルカウンターMODEL3888・3889、フィルタ評価機器、微粒子・エアロゾル研究計測機器を掲載 | 公式サイト参照 |
| TSI Incorporated | 米国ミネソタ州(500 Cardigan Road, Shoreview) | 計測機器(クリーンルーム用パーティクルカウンタ、粒子計数器・検出器、粒径測定装置の製品群) | 「Cleanroom Particle Counters」の製品ページを公式サイトに掲載 | 公式サイト参照 |
| Particle Measuring Systems(PMS) | 公式サイト参照 | 汚染モニタリング機器(気中、液中、微生物、ガス、分子汚染のモニタ、ソフトウェア) | 気中パーティクルカウンタ、ISO 21501-4校正、GMPクリーンルーム認証サービス、機器のレンタルを公式サイトに掲載 | 公式サイト参照 |
2026年10月時点、各社公式サイト・公開資料に基づく。最新情報は各社サイトで確認してください。「公式サイト参照」は、本ページ作成時点で数値や詳細を公式情報から確認できていない項目です。
常時モニタリング:連続的に環境を見張る
定期的な測定で竣工時の性能を確認するだけでなく、運用中の状態を連続して記録する「常時モニタリング」を導入する施設が増えています。粒子数に加え、室間の差圧、温度、湿度、風量、必要に応じて浮遊菌などを計測し、データを一か所に集めて表示・保存・警報する仕組みです。
無菌医薬品の分野では、EU GMPの附属書1(2022年改訂)が、重要な区域の粒子を連続的に監視する考え方を示しています。粒子の数が管理値を超えたときの対応手順(アラートレベルとアクションレベル)を事前に定め、逸脱時には原因を調べて記録することが求められます。原文は欧州委員会が公開している附属書1で確認できます。
半導体工場でも、粒子や分子状汚染のモニタリングが歩留まりの管理に使われます。近年は、取得した大量のデータを分析し、異常の兆候を早い段階で見つけたり、フィルタ交換の時期を推定したりする取り組みが各社で進められています。ただし、AIや機械学習の活用は事業者ごとに進み方が異なり、効果の具体的な数値は公式資料で個別に確認する必要があります。
モニタリング設計の論点
- 測定点の選定:清浄度への影響が最も大きい作業点(重要箇所)と、気流の滞留しやすい場所を優先します。
- 配管の影響:遠隔のサンプリング配管では、粒子の付着や損失が生じるため、長さや曲がりを設計で管理します。
- データの完全性:医薬品の分野では、記録の改ざん防止や監査証跡の確保が重要です。
- 保守と校正:センサの定期校正と、故障時の代替手段を運用に組み込みます。
気流シミュレーション(CFD)の役割と限界
CFD(数値流体力学)は、空気の流れを計算機上で解く手法です。クリーンルームの設計では、吹出口とFFUの配置、還気(吸い込み)の位置、装置や人の動きによる乱れ、発塵源から出た粒子の拡散を予測するために使われます。設計段階で、気流が滞留する場所や、粒子が作業点に回り込む経路を見つけられれば、施工後の手戻りを減らせる可能性があります。
CFDの結果を読むときの注意点もあります。計算の精度は、境界条件(吹出風速、発熱量、発塵量など)の与え方や、計算格子の細かさ、乱流モデルの選択に左右されます。実際の気流は、扉の開閉や人の動作で時間変化するため、定常状態の計算だけでは捉えられない現象もあります。そのため、設計段階のCFDは「候補を比較し、懸念箇所を見つける」道具として使い、完成後は気流の可視化試験や粒子数の測定で確認する、という役割分担が現実的です。
新菱冷熱工業は、2026年7月に、AIとCFDを組み合わせて室内環境を可視化・予測するデジタルツインを開発したと発表しています。将来的な空調制御への展開を見据えた基盤技術であると説明されています。こうした取り組みは、設計から運用までを一つのモデルでつなぐ方向性を示すものです。
| ソフト名 | 提供元の表記 | 製品区分 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Cradle CFD | 提供元はCadence(2026年3月6日にHexagonのDesign & Engineering事業の買収完了をサイトで告知。ページ下部の表記はSoftware Cradle)。日本語サイトあり | 熱流体解析(マルチフィジックスCFD)。2026年7月に最新版(2026.1)の公開を告知 | 気流・温度・粒子の挙動を計算する汎用の解析ソフト。クリーンルームの適用事例の有無は公式サイト参照 |
| Ansys Fluent | 公式サイト上の表記は Ansys part of Synopsys | 流体解析ソフト(CFD)。流体製品群の一つとして掲載 | 気流・熱・粒子の解析に使える汎用ソフト。クリーンルームの適用事例の有無は公式サイト参照 |
2026年10月時点、各社公式サイト・公開資料に基づく。最新情報は各社サイトで確認してください。「公式サイト参照」は、本ページ作成時点で数値や詳細を公式情報から確認できていない項目です。
表のソフト以外にも、国内外に多くの流体解析ソフトがあります。クリーンルームの解析に用いるソフトは、発注者や設計者が求める機能(粒子追跡、微生物の挙動、熱連成など)と、操作性、技術サポートの体制で選ばれます。
粒子以外の計測項目:差圧・風速・温湿度・微生物
清浄度の維持には、粒子数のほかにも見ておくべき項目があります。
差圧
隣り合う部屋の間に圧力差を設け、空気が清浄度の高い側から低い側へ流れるようにします。差圧計は、フィルタの目詰まりの把握にも使われます。フィルタの前後差圧が上がると風量が落ち、清浄度に影響するため、交換時期の目安になります。
風速・風量
一方向流のクリーンルームでは、吹出面の風速が重要です。風速のばらつきや、装置の周囲で生じる気流の乱れを、風速計と可視化試験で確認します。FFUを多数使う場合は、ユニットごとの風量を揃える調整が行われます。
温度・湿度
製品の品質や静電気の発生、作業者の快適性に関わります。半導体や電池の分野では、露点の低い環境(ドライルーム)が求められることもあります。温湿度の条件を厳しくするほど空調の負荷が増えるため、省エネ運用との折り合いが課題になります。
浮遊菌・付着菌
医薬品や再生医療の分野では、空気中の微生物や表面の菌数も管理対象です。測定には、空気を培地に吸引する方法や、培地を置いて落下する菌を捕集する方法などがあります。粒子数が基準内でも、菌数の管理は別に行う必要があります。
これらの計測結果は、記録として保管され、設備の変更や逸脱が起きたときの原因調査に使われます。記録の様式や保管期間は、法令や社内の品質システムに従います。
計測・解析の導入で確認したい項目
計測機器や解析ソフトを導入するときは、次の点を確認しておくと運用の手戻りが減ります。
- 規格への適合:ISO 21501-4への校正対応、校正証明書の発行、国内での校正窓口の有無。
- 測定対象の粒径範囲:必要なクラスで規定された粒径(0.1µm、0.3µm、0.5µmなど)を測れるか。
- サンプリング流量:必要な採取量を、現実的な測定時間で得られるか。
- データ連携:常時モニタリングシステムへの接続方式や、記録の保存形式。
- 保守体制:点検校正、修理、代替機、レンタルの有無。
運用の費用は、機器の購入費用だけではなく、校正の周期、消耗品、技術者の教育も含めて検討します。測定結果に基づいてフィルタ交換や風量調整を行う運用は、省エネ運用とFFU制御の考え方とも結びつきます。フィルタやFFUの提供元は機器メーカーの比較表に、設計・施工の担い手は設計・施工の比較表に整理しています。
粒子計測や測定法の規格は、日本産業標準調査会(JISC)で確認できます。
